2019-2020の記録

2020年1月11日 投票結果を公表しました。

【投票の呼びかけ】

日本社会のジェンダー平等推進に関心をもつみなさまへ—ネット投票にご参加ください

 

【1】この企画の目的

 2019年も繰り返された、ジェンダーに関して問題のある公的発言(注1)や、企業の宣伝や広報。日本社会において、人権についての基本的な理解が共有されていないことに深く失望した人も多いのではないかと思います。特に、そうした発言が政治家によって行われていることは深刻な問題です。また、こうした現状が放置されていることは、ジェンダー平等実現のための日本の取組が他の先進諸国にくらべて非常に遅れていることと深く繋がっていると、私たちは考えます(例えば、世界経済フォーラムが2019年12月に公表したジェンダーギャップ指数ランキングでは、日本は153カ国中121位でした。昨年より大幅に順位が下がっており、日本の取組のスピードが他国に比べて非常に遅いことを示しています。サミット構成国であるG7の中で最下位(注2)であることも変わりません。G7の中で同性パートナーシップ制度がないのも相変わらず日本だけです)。

 

 だからこそ、古い1年を振り返り新しい1年を思う年末年始のこの時期に、今年も、政治家の発言に絞って投票を募り、皆さんの思いを可視化したいと思います。2019年の現役政治家および元職による公的発言の中から、私たちは、ジェンダーに関わる見過ごせない問題発言を、「ジェンダー差別発言にNO」「著しいジェンダー格差の容認発言にNO」という基準で選びました。この中から、みなさんの投票によりワースト発言を選ぶとともに、なぜこれらの発言がジェンダーにかかわる問題であるのかを、社会に向けて発信していきたいと思います。なお、いただいた情報は集計にのみ使用し、他の用途には決して使用しないことを、かたくお約束いたします。

 

 自由民主党が5月に党所属国会議員に配布した「『失言』や『誤解』を防ぐには」というマニュアルには、ジェンダー・LGBTに関する個人的見解を述べることへの注意喚起がありました。公職にある人々がジェンダー差別的な公的発言をしないよう以前よりも注意するようになったのは、ささやかですが望ましい変化です。しかし残念ながら、その後もリプロダクティブ・ヘルス/ライツ(注3)を尊重しない等、問題ある発言が続いています。政治にかかわる人たちのジェンダー差別発言に対する批判や、そのような発言が繰り返される現状を変えたいという気持ちを示すためのこのアクションに、あなたもぜひご参加ください。

 

【2】ワースト発言候補とその理由

 私たちが選んだ今年のワースト発言候補と候補選出理由および関連する新聞報道・ウェブメディア記事へのリンクは、下記の通りです(肩書は当該発言当時)。投票においては、8個のワースト発言候補のなかから、最大2つを選ぶことができます。

 

1. 平沢勝栄衆議院議員「LGBTで同性婚で男と男、女と女の結婚。これは批判したら変なことになるからいいんですよ。もちろんいいんですよ。ただ、この人たちばっかりになったら国はつぶれちゃうんですよ」

 

解説:

 2019年1月3日、山梨県内での集会の際に、少子化問題に関連して述べたもの。「社会が同性愛者ばかりになる」という非現実的な想定のもと、同性愛者が増えることに強い危機感(「国はつぶれる」)を持つよう聴衆を煽る発言。発言前半の同性婚容認と発言後半との関連は必ずしも明確ではないが、「批判したら変なことになるので自分は同性婚容認と言うが、それは同性愛者の増加を招き国の破局をもたらすだろう」という遠回しな同性婚および同性愛者批判である可能性も否定できない。https://www.huffingtonpost.jp/entry/hirasawa-katsuei-lgbt_jp_5c5d8c67e4b0974f75b3c648

 

2. 麻生太郎財務大臣・衆議院議員「(日本人の平均寿命が延びたのは)いいことじゃないですか。素晴らしいことですよ。いかにも年寄りが悪いみたいなことを言っている変なのがいっぱいいるけど間違ってますよ。子供を産まなかったほうが問題なんだから」

 

解説:

 2019年2月3日、福岡県内での国政報告会の際に、少子高齢化と社会保障に関連して述べたもの。子どもを産み育てにくい社会のありかたやそのような社会を作り上げてきた政治の責任に言及することなく、「子供を産まなかった」個人のみに(特にいわゆる「産む性」でありながら産まなかった女性に?)社会保障費問題の責任を押し付ける発言。

https://mainichi.jp/senkyo/articles/20190204/k00/00m/010/254000c

 

3.  桜田義孝衆議院議員「お子さんやお孫さんにぜひ、子どもを最低3人くらい産むようにお願いしてもらいたい」

 

解説:

 2019年5月29日、千葉県内での会合の際に、少子化問題に関連して述べたもの。出産は個人の生き方やリプロダクティブ・ヘルス/ライツに関わることであり、他人に指図されることではない。個人の生き方の選択の自由という基本的人権を無視するような発言。

https://this.kiji.is/506442349864371297

 

4. 増子輝彦参議院議員「ご覧の通り決して美人ではないが、非常にチャーミング」「見た目は優しい感じでチャーミングでしょう。美人ではないけど」

 

解説:

 2019年7月19日および22日、福島県内での応援演説の際に、女性の参議院議員候補について述べたもの。選挙を控えた候補者が弁士の発言に抗議できない構図のもと、「美しい女性ではない」ことを述べる揶揄的表現等を使用して候補者の外見的魅力度を鑑定してみせ、聴衆にも同様にするよう呼びかけた発言。

https://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201906/20190627_61025.html

 

5. 稲田朋美衆議院議員「自分と森さんの共通点は2人とも美人ということ」「森さんがいるだけで華やかだ」

 

解説:

 2019年4月中旬、福島県内での集会の際に、この選挙区選出の女性の現職の参議院議員について述べたもの。女性政治家の役割を外見的な魅力に押し込める発言。

https://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201906/20190627_61025.html

 

6. 三ツ矢憲生衆議院議員「この6年間で吉川有美は何をしてきたのか。一番大きな功績は子どもをつくったこと」

 

解説:

 2019年7月12日、三重県内で、この選挙区選出の女性の現職の参議院議員候補に対する応援演説の際のもの。議員としての活動ではない事柄が「この6年間で一番大きな功績」とされており、吉川氏を「議員」としてではなく「子どもを産むかどうかによって功績の程度が決まる女性という存在」として扱う発言。なお、女性の功績を「子どもを産んだ/生まない」を基準に公に評価すること自体も、他人のリプロダクティブ・ヘルス/ライツを尊重しない言動であるため問題がある。

https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5d2850c3e4b02a5a5d58e56d

 

7. 萩生田光一衆議院議員(女性現職候補の一番大きな功績は子どもをつくったことだとした三ツ矢憲生衆議院議員の街頭演説内容について)「母親になって一つ大きくなった候補を応援してほしいという趣旨だ」「聴衆からは一番拍手があった」

 

解説:

 2019年7月14日、東京都内で記者団に対して行った発言。女性現職候補の最大の功績とは、その人の任期中の議員としての活動ではなく子どもをつくったことだと他の議員が演説したことについて、肯定的認識を示した。女性の現職候補を「現職政治家」としてではなく「母親になることで一つ大きくなる女性という存在」として眺めるステレオタイプな女性観を肯定する発言であるとともに、政治家の不適切な公的発言が「ジェンダー差別を肯定してよい」という社会的風潮を作ってしまうことへの危機意識に乏しいことを示す発言でもある。

https://www.sanyonews.jp/article/918727

 

8. 安倍晋三総理大臣・衆議院議員「お父さんも恋人を誘って、お母さんは昔の恋人を探し出して投票箱に足を運んで」

 

解説:

 2019年7月16日の新潟県内での応援演説の際のもの。恋人を持つことについて、男性既婚者の場合と女性既婚者の場合で異なる評価を与えることを前提とする冗談、またはリップサービスと思われる発言。男性既婚者では「現在恋人がいること」にポジティブな評価をしているのに対し、女性既婚者では「過去に恋人がいたが現在は恋人がいないこと」にポジティブな評価をしており、恋愛や結婚に関し、性別によるダブルスタンダードを公然と肯定している。

(なお、言い間違いの可能性に言及する記事もあるが、「お父さんも恋人を誘って」は1回きりの発言ではないため単純な言い間違いではないと判断した)。

https://www.yomiuri.co.jp/politics/20190716-OYT1T50201/

 

【3】丸山穂高衆議院議員の発言について

 私たちのFacebookページでは上記8発言のほかに、丸山穂高衆議院議員の「女性を買いたい」「おっぱいをもみに行きたい」という発言をとりあげました。これは、2019年5月11日深夜、国会議員を代表する形で公費により北方四島ビザなし交流訪問事業に参加していた際に、国後島の宿舎から外出をしようとして述べたものです。

 

https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201905/CK2019053102000149.html

https://news.tv-asahi.co.jp/news_politics/articles/000155841.html

 

 公的行事に参加中に自らの性的欲望充足のための言動を行ったこと、この事業の目的に照らしても同行者に対しても著しく不当な言動であったこと、日本では売買春は違法であること、当時外出は禁じられていたことなど、さまざまな点からみて非常に問題がある発言でしたが、今回はこれを投票対象としていません。それは、今回ワースト候補として挙げている発言はいずれも、一般聴衆やメディアに対し自らの考え方や意見を示すものであるのに対し、丸山議員の発言は、公的行事に参加する中で行ったものではありますが、聞いている相手とは無関係に自らの勝手な欲望を述べたという点で、他の発言と同列に扱うことはできないと判断したためです。

 

 もちろん、今回投票対象としなかったことは、この発言にジェンダー差別に関わる問題がないことを全く意味しません。サービスを購入することについて「女性を買う」という言い方をしたり、女性の性的部位に自分が好きなようにアクセスできるという前提で話したりしていることは、性的サービス労働に従事する女性の尊厳に対する敬意に欠けており、非常に問題であることを指摘しておきたいと思います。

 

 

【4】結果の公表について

 皆さんの投票の結果は、2020年1月11日夜、FBページおよび本サイトで公表します。全体ワーストだけでなく、性別(性自認)ごとのワーストや、セクシュアルマイノリティ当事者のワーストも発表します。乞うご期待!

 

 【5】  投票ページへ

投票ページへはここをクリック!(終了しています)

 投票スタートは2019年12月30日19時00分

投票締め切りは、2020年1月9日23時59分です!

  

【脚注】

(注1)ここでいう「公的発言」とは、公職にある者または元公職者が、①それらの肩書のもと行った発言、②意見を公に表明するための方法を用いて行った発言、の少なくとも一方を満たすものを指します。
(注2)日本の121位に対し、ドイツ(10位)、フランス(15位)、カナダ(19位)、イギリス(21位)、アメリカ(53位)、イタリア(76位)。
(注3)「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」の日本語訳は「性と生殖に関する健康と権利」。1994年のカイロ会議(国際人口・開発会議)において国際的承認を得た、女性の妊娠・出産に関する自己決定権についての考え方である。

 

 

公的発言におけるジェンダー差別を許さない会(NOASEPS; NO to all sexist public speeches

 

呼びかけ人(五十音順)
申琪榮(お茶の水女子大学准教授)、千田有紀(武蔵大学教授)、西川有理子(パリテキャンペーン)、三浦まり(上智大学教授)、皆川満寿美(中央学院大学准教授)、村尾祐美子(東洋大学准教授)、柚木康子(公人による性差別をなくす会)